猛獣使いとの出会いと別れ

spoutnik2005-04-28

毎日、学校のあるエクスの街までの高速バス乗り場まで、うちの近くからバスに乗っている。そのバスの中での出来事。
もうすぐ高速バス乗り場のある停留所、という所で、ひとりの老紳士(推定85歳)がよろよろと立ち上がった。するとそれを見た、向かいに座っているマダムが、あたかも知り合いに聞くように尋ねた。「ムッシュー、次で降りるの?次が何処だかわかってる?駅よ、バス乗り場よ、そこでいいの?」ムッシューはバスの揺れるのにあわせてゆらゆらしながらも、「バス乗り場、そう、それでよいのじゃが。。。」立っているだけで精一杯くらいの勢いである。見ると傍らに不安定なキャリーに乗せたでっかい荷物。
「じゃぁ、おじいちゃん、荷物降ろしてあげるから(おばちゃん)」「手伝いましょうか?(横の若い女の子)」「いや、じゃぁ私が荷物は持って降りますよ(40代くらいの男性)」「ちょっと、車掌さん、このムッシュが降りるから、ちょっと待って!(おばちゃん)」「荷物、持ってあげますよ(男性)」「おじいちゃん、手、放して大丈夫よ、この人が持って降りてくれるから(おばちゃん2)」「あぁ。。。ありがとう(おじいちゃん)」バスの中でのこういう助け合いを見るだけで、じ〜んと感動してしまう私、心が荒んでしまっているのか?「フランスの、こういう所すごく好きなんだよなぁ。。。」としみじみ。
そんなこんなで、よろよろしながらおじいちゃんは無事バスを降り、「あ、じゃぁ私、高速バス乗り場まで行くから、一緒に行きますよ(私)」「じゃぁ、よろしく頼んだよ、じゃぁね、おじいちゃん(男性)」
聞けばこのおじいちゃん、私と同じくエクスに行くらしく、結局エクスまで一緒に。バスに乗る階段すら、登るのがやっとという雰囲気で、バスの中でもまるでジェットコースターに乗っているかのような勢いでしっかり手すりにつかまっている。エクスに着いたら従姉妹が迎えに来るから、と言っていたのだけど、このおじいちゃん携帯を持っているものの使い方が分からない様子。無理もない、字も小さいしボタンも小さい携帯電話は、目も悪くなってきて、普通にしていても指が震えるようなお年寄りには使いにくいに違いない。代わりに電話をかけてあげるが、相手は留守電。日も高くなってきて暑くなってきたし、このまま迎えが来るかどうか分からない状態で置いて行くのも忍びない。しばらく一緒に待ってみる事にした。
このおじいちゃん、昔はサーカスで猛獣使いをやっていて(!)、いろんな国を回っていたとか。まぁ、今ではこじんまりとしたおじいちゃんだけど、よぼっとしていても、ちゃんとスーツを着、革靴を履いたオシャレな老紳士である。「コーヒー飲みなされ」「何か食べなされ」「もっと何か食べなされ」「何か飲み物をまた頼みなされ」と、いろいろごちそうしてもらって(こういう所がいかにもおじいちゃん)、世間話をし、迎えの人との電話が繋がった所で、お別れをした。「まぁ多分ここで待っていたら、30分か1時間後には来るだろうから。。。」さすがお年寄り、時間の捉え方がのんびりしている。
いろんなひとと日々出会い、別れてゆくけれど、お年寄りとの出会いはなんだか胸がきゅんとくるのは何故だろう。