娼婦じゃないって!

spoutnik2005-07-13

もぅ、頭に来た。
今朝から、「朝4時15分前に迎えに行くから」と、いよいよ他の人がバカンスの穴埋めシフトになったらしい。仕方ないので、言われるままに朝4時前、うちの近くの大通りで待つ。
いつも忙しいときは「迎えに行くから!」と言って無理矢理私を働かせるのは、ジャン・ポール。彼はかなりしきり屋さんなので、まぁ「分かった」と言っておくのがてっとり早い。これまでも何度か迎えに来てくれたことはあるのだけど、引っ越してからは2回目。問題なのは、その待ち合わせ場所。
だいたい、いつも「15分前」と言いながら、大抵15分は待たされる。でも待たせるわけにもいかないから、待つ。しかし、引っ越してから指定された待ち合わせ場所、めちゃめちゃ危険な場所なのだ。というのも、この通り界隈には娼婦が並ぶ通りがあったりして、そういう目的でふらふら車を走らせている輩がけっこういるのだ。
それでも、すぐに来てくれれば、まぁ15分くらいの間なら、と思って待つこと30分、おかしい、来ない。連絡を取ろうにも、「今、携帯ないから!」と昨日断言していた。ってことは、私がこの場を離れてしまったら、向こうからも連絡が出来ないってコト。それでも試しに電話してみる。
「アロー?」
「あっ、ジャン・ポール?!」
「いや、ジャン・ポールはいないよ、僕はジャン・ポールの父だ」
「あ、ごめんなさい、朝早くから(なんでお父さんが出るんだ?)、なんでもないです」
「いやいや、どうしたんだい、何かあったのかい」
「いえ、ほんとに、いいんで」
「君、可愛い声してるねぇ、どうしたの?」
やばい、もしやジャン・ポール、携帯盗まれたんじゃぁ!?そんでその盗んだやつ(危ない感じの男)が、今この電話をとっているんじゃぁ?!
怖くなったので「どうしたの?」という声を遠くで聞きつつ、電話を切る。
その30分の間に、私の周りを行ったり来たりして車の中から話しかけてくる男の人が、すでに3人、もう限界である。過去に1度、ものすごく怖い目にあって以来、こういうのはほんとにダメなのだ。実際、車から降りてきてどうこうってことはないとは思うけど、やっぱり人通りもないし1対1だから、怖い。でも怖がっていることを悟られないよう、堂々としてなくちゃならない。
「そんな所にいたら、危ないよ、この辺は不良が多いんだから、ね」
「放っておいて下さい、人を待っているの(朝の4時に、我ながら変だと思う)」
「いや、でもそこは危ないって」
「・・・(無視)」
「ほら、乗って乗って」
「・・・(聞こえてない、もしくは意味が分かってないフリ)」
こういうのを延々30分繰り返し、もうほとほと嫌になったので、一旦家に帰ってから始発のバスで出直すことにした。結局何のために3時に起きたか、全く分からない。
でも、もしかしたらジャン・ポールが私を見逃してしまったのかも知れないし、ひょっとしたら事故にでもあったのかも知れない、私がその場にいなかったとか言われたら悔しい、とかいろんな状況を想定して店に向かう。
「おはよう、ジャッキー、ジャン・ポール来てないの?」
「あぁ?来てるよ、どうしたの?」
「いやね、今日朝4時前に迎えに来るからって言うから待ってたのに、来ないし、その間にいろんな人から車を寄せられて、怖い思いをしたんだけど」
「あ〜、ジャン・ポールねぇ、今朝寝坊したんだよ、オレも鍵持ってないから店の前で1時間半、待ってたんだ。車で寝てたけど」
そこへ奥からジャン・ポールが現れ、私の顔をみて冗談っぽく「あ、遅刻したな」みたいな顔をしてみせた。それで私も切れた。
「ちょっと!あんな所に待たせっぱなしにするなんて、あり得ない!どんだけ怖い思いしたと思ってんの?!」
「寝坊しちゃったんだよ、わざとじゃないよ、寝坊して、電話もないし、仕方なかったんだよ」
「それにしたって、もうあの場所はいやだ、場所を変えて!」
「分かった、分かった、その方がいいならそうするよ」
「1時間近く待っていたんだから。一応携帯にも電話したし」
「あぁ、父さんが出ただろ」
「うん、ジャン・ポールのお父さんだよ、って言ってた」
「先週、父さんの所に行った時に忘れて来ちゃったんだ、だから携帯ないって言ったろ?」
「えっ!アレほんとにお父さんなの?!『可愛い声だね』なんて言うから、てっきり変な奴かと思って切っちゃった」
「『可愛い声だね』なんて言ったの?!まったくあの親父は!しかも朝の4時に。」
「いやでも、声、若い感じだった、ジャン・ポールと同じくらい」
「もう70だよ!?」
あれがほんとにジャン・ポールのお父さんだったということがおかしくて、とりあえず私の怒りも収まってきた。その後ジャン・ポールと話合って、待ち合わせ場所は変えない代わり、彼がそこに着いてから私に電話をして(とりあえずそのために奥さんの携帯を借りる)、それから私が出ていくことになった。
「寝坊なんて、ここで働き始めて2年だけど、初めてだ!」
「疲れてたんですよ」
「いやぁ、昨日仕事のあと、船に乗って沖まで泳ぎに行っちゃってさ、で、今日もこの後行くんだよね、だから明日も寝坊しちゃうかも。だから、電話するまで、出ちゃダメ、いいね?」
やっぱりマルセイユ人、海にいかずにはいられないらしい。
ともあれ、これでもう通りに出て待たなくてもいいと思うと、ひと安心。やっぱり彼らは男だし、フランス人だから、あそこで待つのがどのくらい怖くて、アジア系の私がどのくらい目立つかってことが分かってなかったらしい。このまま2週間もあそこに立ち続けたら、ほんとちょっとした取り巻きが出来ちゃうよ、おじさんの。