おすそわけ

spoutnik2005-08-07

日曜日。始発のバスは平日より遅い6時15分。
始発でかつ始点なため、出発までのしばしの時間,バスの中で待つことになる。平日の始発バスのメンバーはだいたい決まっている。いつも一番前に座って、同じ服装、同じリュックを背負ったまま新聞を読むおじさん。この人は6・7月といなかったので,バカンスで仕事が休みだったのだろう。
それから、そのおじさんの知り合いの黒人男性。だいたい、通路をはさんで隣に座る。
もうひとり、バス停1個分だけ乗るアフリカ系のおばさん。乗って待っている間にバス停1個分くらい歩けそうなものだけど,まぁ暗いうちだし、ということでバスなのだろう。みんな、始発のバスの常連は知り合いっぽい。
で、今日,日曜日。バスの中に初めから乗っていたのは、私と、アラブ系のおじさん、アル中っぽい男性の3人。まぁけだるい感じである。ふと、アラブおじさんが私の方にやって来て,ほれ、とドーナッツを差し出して来た。一瞬ひるむ。買うのか?予想していなかったので,動きが取れないでいると、後ろからアル中男性が「もらっときな」と言う。ので、もらっておく。「メルシ」と、もらったはいいものの,明らかに乾燥していてちょっと「賞味期限切れ」な雰囲気が漂っている。けれど食べないのも悪いかなと思い、ちびちびと食べていると、今度は爪楊枝でできた番傘のおもちゃみたいのをくれた。ちゃんとぱさっと開くようにできている。なかなかうまくできているなぁ。(写真)。
ドーナッツは、「中身がクリームだったらやばい」と思ったら中身はリンゴジャムだったので、安心してちびちびと食べていると,今度は若い女の子が2人乗って来た。朝帰りなのか、ものすごくけだるい雰囲気で,乗って来るなりアル中男性に「タバコ、持ってます?」と聞いている。怖いモノなしだ。
その怖いモノなしな態度にアル中男性もやや引いている。アラブおじさん「おいらは、タバコはやめたんだな,昔は吸ってたがね。」仕方なく、アル中男性が1本分けてやるが、「ここで吸うなよ,外で吸えよ」と注意をする。
「分かってるわよ」と言いながらも,タバコを分解してハシシを包み、吹かし始める。
「姉さん、いつになったら外に出るのかな?」とアル中に突っ込まれて、仕方なく外に出て吸っている間,もうひとりの女の子にアラブおじさんが話しかけるが、「寝てなくて,あったま痛いの、話しかけないで」と一喝され、「セ・ラ・ビー(まぁそれが人生ってもんょ)」。これがこのおじさんの口癖らしく、アル中男の話も大抵最後は「セ・ラ・ビー」で済まそうとして,「何がだ?」と突っ込まれる始末。
ここまでが、バスが出発するまでの出来事。
やがて車掌が乗り込んで,例の女の子も車内に戻って来た。そこに、タバコをやった強みでアル中男性が「おい、ハシシ分けてくれよ」と言い、ひとかけら分けてもらう。ここは物々交換バスか?交換できるもの、あるかしら?などと考えているうちにバスは発車、いいや、別れ際にもう一度お礼を言っておけば、ということにする。
約10分後、アル中なのか、タダの飲んだくれなのか不明だが,よろよろしながら、ハシシのかけらを手に、目的地で降りようとして座席に財布やらなんやら、大事そうなものを忘れそうになり、アラブおじさんに呼び止められる。
そして結局、このアラブおじさんと私、降りるところが同じと判明。最後に一応ドーナッツのお礼を言い、別れた。結局のところ,あのバスに乗っていた人の中でいちばんまともだったのはやはりアラブおじさんなのだけれど、この時間にたくさんドーナッツを持っていったいこれから何をする人なのか、全くもって見当がつかない。
たった30分そこらの間に、マルセイユの縮図をみたような気になった、朝の出来事。