拾いもの

spoutnik2005-11-01

マルセイユでは、メトロとバスのストが大方の予想(まぁ2〜3日で終わるでしょ)を大幅に上回り、ついに1ヶ月目に突入しようとしている。バスはほぼ全部ストップ、2本しかないメトロも1本しか動かなかったり、待ち時間も30分とか、いきなり午前中で終わってみたりとか、かなり「使えない」状態である。
このストの直接の原因は、今マルセイユで建設が(カメのように)進んでいるトラムらしい。どうも、トラムは民営、メトロ&バスは市営なため、それで揉めてるらしい。本来貧乏なマルセイユにははっきり言ってトラムを整備するお金があるわけもないのに、この先それを税金などで払わなくてはならなくなる市民たちも、けっこうトラムには反対らしい。しかも、かつては存在していたトラムを以前1度は廃止して、線路も潰したのに、また新しく建設。この計画性のなさがいかにもフランス的である。
まぁ一応2007年完成予定のトラムだけど、この調子じゃぁいつになることやら。初乗り運賃もメトロに比べるとかなりお高めらしく、「今のうちに乗っておこ〜」みたいな感じで、町の一角に展示してあるトラムにちょっと乗ってみたり(けっこう長居したり)する人も。そうか、これじゃぁわたしがマルセイユにいる間に乗れないかもな、確かに。今度試しに乗りに行ってみよう・・・。

ところで。
わたしがバイトしているパン屋兼菓子屋は、マルセイユ14区にある。14区というとマルセイユの北区、観光名所もないし、いわゆる「アフリカンとか低所得者の多い住宅地」である。まぁ北区っていっても広いし、まぁちょっと郊外感はあるけど、危険ってコトもない、まぁそんなところ。
で、最近ストでバスがないので、最寄りのメトロ駅(National)から徒歩15分、歩いて通っている。この駅を利用するのはほぼ100%この界隈に住む人たちで、わたしのように「通って」来ている人も稀だと思われる。観光客は、まず、いない。
先週の土曜日。仕事が終わって、そんなメトロ駅に降りて行った時のこと。改札のわきで、警備員になにやら聞いている東洋系のおばさんがいる。歳の頃60過ぎ、痩せ気味でまぁおばさんとおばあちゃんの境目くらいな感じ。「あれ、もしかして日本人?いや、こんな所に日本人がいるはずはない。ベトナム人か中国人に違いない。」と一瞬頭の中で判断を下したわたしは、たいして気にも留めずに階段を降りていった。
「すみませ〜ん、ちょっと、すみませ〜ん!!!」
と、振り向くとさっきのおばさんが階段を駆け下りてくる。あ、日本人だったんだ、しかもよく見るとツアーのタグを付けた鞄やら、握りしめた地図やら、明らかに観光客である。この時点でわたしの頭は軽くパニック。だって、こんな場所に、「はい、わたしは観光しに来ました」というような人、しかも日本人が、いるはずはないのだ。しかも次の言葉でわたしは言葉を失った。
「すみません、あのね、港へ行きたいんだけれど、こっちの方向でいいんですか?!逆?!」
誰なんだ〜、こんなおばちゃんをひとり、こんな辺鄙な地区に連れて来たのは!港への行き方が分からないなんて、本当に全く、マルセイユ初心者なのに、なんでNationalにいるの???
そこへちょうどメトロが入って来たので、とりあえず一緒に乗り込み、事情を聞くと、
「いぇね、マルセイユにツアーでね、来たんですよ、船で!」
「船で?!」
「そうなんですよ、大阪からね、飛行機でええと、イタリアに着いて、それでそこから、船」
「へぇ〜、そんなのあるんですね〜。」
「そう、あるんですね、で、船でマルセイユに着いてね、港の所からシャトルバスに乗って、なんかこう適当に降りて、ふらふら〜っと歩いていたらこんな所に来てね、もうお金もドルしかないし、どうしようかと思って・・・」
「ここって・・・けっこう遠いですよ?ツアーにはひとりで参加されたんですか?」
「ねぇ〜、1時間くらい来たかなぁ〜ってなんか草花とか積んで歩いてたから、よく分からなくってねぇ。そう、ひとり、っていうかね、日本から来た人みんな、カップルでね、だからちょっとひとりでぶらっとしてみたんですよ〜。でも地下鉄に乗るのにドルしかなくて、困ってたら、お金要らないって!」
「あぁ〜、今、ストなんですよ、だからけっこうそういうのいいみたいですよ。えっと・・・港に行けば分かります?」
「えぇ、港のね、ええと・・・(地図を出す)」
「え、地図ってコレしかないんですか?(恐らく、このツアーで自由時間はそんなに長くないため、まさかこんな所まで来る人がいるなんて予想していないせいか、まさに港から半径300mくらいの範囲の地図しか持っていない)・・・えぇと・・・今日はストで、赤いメトロしか走ってないかも知れないから(港のところは青いメトロ)、ちょっと歩いて10分くらいかかりますけど、大丈夫ですか?」
「えぇ、もう、全っ然分からないんですから!」
「えと、じゃぁ、港まで一緒に行きますよ」

こんな感じで、結局港が見える辺りまで連れて行って、「お礼に」と貰ったのが、このバラ(カフェとかにいると売りに来るヤツ)。
しかし・・・いくらなんでも危なっかしいなぁ・・・。ただ、お隣の町エクサンプロバンスに住む人でさえ固まってしまうこともある「マルセイユ北区」を歩き回って、「いやぁ、みんないい人でね、いいとこでしたわ(大阪人)」と言われると、ちょっと嬉しいような、なんか変な感じ。運がいいんだな、あのおばちゃんはほんとに。

というわけで先週末は久しぶりに浪速のおばちゃんパワーを体験し、なんていうか日本人のたくましさと危なっかしさみたいのを感じた次第である。